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旅人のブログ

好きな時に好きなだけ書くがモットーな生命体の行動模様・・・
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魅鏡ノセカイ [K17221-006]

一章最終話!
なんだかギャグっぽい気がするよ!←
 

ちなみに、パソコンだと改行が若干無効になってますので
携帯で見ることをお勧めします(ペコリ


<登場人物>

・ビャッコ
晴れて組織の探求救助班Aチームにアズと入隊した14歳の少年。
語り部で準主人公の常識人。ついでにツッコミ。そして最近若干ヘタレ。
能力は強化種二位「肉体強化」

・アズ
探求救助班Aチームに入隊した14歳の少年。
常に死んだ目をして無表情で非常識。あと話を聞かない主人公。
能力は攻撃種五位「特性転移」

・ヘル
探求救助班Aチームのビャッコたちの一年先輩だが14歳。ヒロイン。
ポニテで黒髪な美少女。胸が控え目。常に敬語で話す天然ボケキャラ。
能力は守護種一位「外部遮断」

・三雲マコト ミグモマコト
探求救助班Aチームリーダーの27歳の美女。
スタイル抜群でかっこよくニヒルに笑う。
男っぽいところが多い。アズの育ての親。

・フリント
入隊式でアズに倒された脇役。良家出身の典型的ナルシストな14歳の少年。
金髪でスポーツマン的な美形。
能力は攻撃種一位「電撃放射」で研修生の中では(能力の数値は)最強。

・フローラ
フリントの双子の妹でブラコン。14歳の少女。
金髪美少女だけど高圧的な話し方をする。
能力は不明だけどそんなに強くないらしい。よく鞘で脳天を叩いてくる。



 


[K17221-006]

ごろりと仰向けに寝転がる。
今いるのは特に何もないけどゴミがその辺に転がっている・・・
つまりは俺の部屋訳なんだけどな。
別にさぼっているわけじゃないけど、真昼間から寝転がっているとなんだが後ろめたい。
既に就職しちゃってる身としてはものすごく後ろめたいけど、今日は自宅療養が言い渡されていた。

例のバグやら指名手配やらのいざこざが終わり、きっちりヘル先輩に怒られ、
精密検査のあれやこれやとされて一日つぶれた上、今日は様子見のためと部屋に押し込められた。
リーダーの話によると謹慎が解けるのは明日以降だから、どの道何も出来ないんだけど。
正直、体を動かしている方が好きだった。
じっとしていると無駄なことを考えてしまいそうだし。
少しくらいバグ破壊シュミレーションとかしてきちゃだめだろうか・・・。だめなんだろうなぁ。

「何、ぶつぶつ言ってるの。」

いつもながらの抑揚の少ない声と共にじとっという視線が頬に突き刺さっている気がする。
俺は視線の反対側に寝返りを打って聞こえないふりをしてみた。
・・・。
・・・・・・。
・・・背中にじとっという視線が張り付いている気がする。

「シロ。」

とりあえず聞こえない振り。
俺は今寝ているんだ。暇人にかまっている暇はない。

「シロシロシロシロ。」

・・・・・・。

「・・・ポチ?」
「いや!?なんでそこで犬名になるんだよ!!」

思わずがばりと起き上がって叫んでいた。
・・・しまった。つい癖で。

「起きてたの。」

1mほど離れた隣のベッドに腰掛けた奴がこっちを見ていた。
相変わらず無表情なルームメイト兼同僚のアズだったりする。
この間盛大に喧嘩したにもかかわらず平然としている。
むしろ俺だけちょっと気まずかったりする。

「あのなぁ・・・俺は今療養中なの!邪魔すんなよ!」
「胃炎?」
「・・・うん。いや、近いうちにはなりそう・・・いや、お前自覚して・・・」
「だから、バグって何?」
「聞けよ!!というか話題を急にかえるのもうやめないか!?」
「犬っぽいから。」
「誰も今犬名にした理由は聞いてないんですがねぇっ!!」

そこで、ふと前方のアズの姿に違和感。
思い切り私服(黒い)に部屋くつろぎモードだけど。
なんだろう・・・何が違和感をかもし出して・・・。

「だから、バグ。」

・・・!?

「お前・・・なん・・・急に研修時代のテキスト・・・いや!明日世界が終わるのか!?!?」
「どうしたの。」
「おおおおお前が勉強しているなんておかしいだろ!!絶対!」
「オレ、勉強しないわけじゃないけど。」
「そうだけど・・・いや、そうなの!?!?!?」
「ん。シロより出来る。」
「それは嘘だろ!!」

基本、研修時代の成績は最下位だったはずだ。
そして普通に考えて、俺より出来る奴が、

「基本中の基本のバグ知らないわけないだろうがあああああああああ!!!」
「書いてないけど。」
「一々書かないくらい常識なの!というかお前本当に何しに組織に来たんだよ!!」
「流れで。」
「やっぱりか!」

そんな気がしてたよ!
マコトさんが育ての親の時点で!!
くそう・・・マコトさんってアズに厳しいんだか甘いんだか時々わからなくなるからなぁ・・・。
しかし、バグわかってないってことはこの前バグ飲んだりしたのも危険性をまったく理解せずにやったということか?
頭痛がしそうな気がして頭を抑えて盛大にため息をつく。
実際頭痛はしなかった。

「あのなぁ・・・えーっと・・・バグだっけ?」
「そう。」
「別名世界崩壊因子って言って・・・世界の中心のコアに寄生して世界を崩壊させて・・・人にも寄生して・・・」
「シロ。先生向いてない。」
「おいこら!!そっちが頼んだんだろうが!!」
「説明下手。」
「 お 前 に 言われたくないわああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

アズはこちらから目を反らしてテキストをぱらぱらしだした。
くそう・・・俺の説明は聞くに値しないと!?
汚名返上。名誉挽回。俺は必死に頭をフル回転した。

「えーと。世界が無数に存在しているのは知ってるよな。」
「多重世界?」
「そうそう。で、それぞれの世界が独立して機能してるってのもわかるか?」
「わかる。」
「なら話は早いな・・・あ。お前コンピューターわかる?」
「UFなら知ってる。」
「え?何?」

目をこちらに向けて、こつりと右腕についている機械を叩く。
起動して空中にA4サイズの映像が映し出される。
俺が情報を検索したり、メールしたり、電話したりするのに使用した機械だ。
組織に入る時に貰ったのだが、便利で重宝している。

「UF。」
「あ。これ・・・UFって言うのか・・・知らなかった。」

・・・・・・アズの視線が痛い!
なんでバグ知らないのにこの機械は知ってるんだ!?
汚名挽回した気がしてきた!

「そ、それで・・・UFでもいいや。プログラムはわかるよな?」
「ん。」
「世界にはそのど真ん中のそれぞれコアっていう所に世界の誕生の瞬間から終焉までプログラムされてるんだよ。」
「ふーん。」
「バグっていうのは、そういうプログラムを狂わせたりする・・・そうだな。ウィルスみたいなもんなんだよ。」
「・・・。」
「だから、人間や世界のコアに寄生すると狂ってぶっ壊れちまうわけだ。そうならないように俺らが・・・」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「寝てるか?」
「起きてるけど。」

微動だにせずに静止してるから目開けたまま寝てるのかと思ったよ!

「コンピューターウィルス。」
「いや、わかったなら・・・いいけどさ。」
「ん。ありがと。」
「へ?あ。おう。」

あっさり引き下がって礼を言う様にちょっと固まっていると、
もう終わったとばかりにテキストを持ったままごろりとベッドに寝転がるアズ。
こちらから顔は見えない位置にあるため、何を考えているかさっぱりわからない。
いや、むしろ見えててもわかんないだろうけどさぁ・・・。
なんというか・・・うーん・・・。
じっと寝転がった後頭部を見るが、やっぱりよくわからなかった。

そもそも、アズのことってよく知らなかったりする。
既に出会って同僚となって二週間経過しようとしているが、一向に謎の奴だ。
無表情で、淡々と話して・・・研修時代の成績は最下位。だけど戦闘は強くて負けず嫌い。
能力は攻撃種五位「特性転移」だっけか?趣味は・・・武器いじりかな?
後・・・マコトリーダーが育ての親で・・・

いや、俺って結構アズのこと知ってないか?
あれ?なんか謎が多い奴に見えるからそう思わなかったけど・・・。
むしろこっちの情報の方が相手に明かしてなかったりしないか?
でも全然何考えてるかわかんないんだよなぁ・・・。
もうちょっと扱いやすければ・・・。

 

「シロって記憶喪失?」

ぽつりと吐き出された言葉が耳に突き刺さった。
いつの間にか横になったままこちらをじっと見ている黄色い目が一組。

「え?はあ?」
「記憶ないの?」
「いや、それはわかってるけど。」

それにしても、何故こんな急な話になったのだろう。不思議だ。
そして思考回路が意味不明だ。
やっぱり暇なのだろうか。それともテキストに飽きたのだろうか。
・・・まあ、ついでだしと、記憶の糸をたどってみる。

「記憶って言ってもなぁ・・・別に普通にあるぞ?」
「出身世界のID。」
「え・・・」
「親の名前。」
「あー・・・」
「苗字。」
「そりゃお前もだろ。」
「組織に来る前何してたの?」
「いや、それは・・・」
「組織に来る前の記憶は?」
「え?」

カチリと、アズが自分のUFのスイッチを入れた。
数秒操作してコール音。どうやらどこかに通信・・・って!

「な、なんだよ!?変か!?」
『ああ。私だ。』
「ちょ!?リーダーに!?何故リーダーに連絡!?」
「マコト。シロが記憶異常。」
『お。きちんとテキストを読んでいるんだな。』
「書いてあったから。」
『そうか・・・報告ありがとう。とりあえず私からもビャッコ君に・・・』

がしりとアズの腕を掴んで映像をこちらに向かせた。

「いや!全然よくないですよ!なにがどうなっ・・・!」

足に激痛が走ってもんどりうって後方に転倒した。
幸いにもベットが近くて後頭部強打とかはなかった。
そしてむちゃくちゃ痛い。
あと、アズが無表情で目だけ抗議の光線を発射している。

「痛い。」
「いや・・・それは謝るけど向こう脛いきなり蹴るか?普通・・・」
『ああ。ビャッコ君もそちらにいるね?では、悪いんだが至急私の部屋まで来てくれないか?』
「・・・・・・・・・はい・・・」

なんか、色んな意味で泣けてきた。

 

 

「悪いね。療養中だというのに。」
「いえ・・・」

入ってきたときと同じことを言いながらマコトリーダーは紙を机の上に置いた。
前回来たときは異様にびくびくしていたが、今回は大丈夫・・・いや、ちょっとだめかも。
マコトリーダーいつも通り優雅に奥の机で考え込んでいる。
相変わらずの美女である。
さっき俺がいくつかの質問に答えた用紙に丸や印を入れながら、リーダーはこちらを向いた。

「それで、まぁ。君は確かに記憶異常みたいだね。」
「そうでしょうか・・・自分では自覚ないんですが・・・」
「まあ、それが記憶異常なのだがね。」

確かに、前の記憶がないというのは事実だ。
丁度組織に拾われる前に壊れる世界を見たのは覚えている。
だけど、それ以前はまったく思い出せない。
何よりそれに対して自分がまったく違和感を感じていないことろが異常なのだそうだ。
記憶異常とはそういった「記憶が欠如」して「それに気づかない」ことをいう。
原因はやはり―――バグであるらしい。
記憶異常自体は特にこれといってめずらしいことではないらしい
―――故郷の世界を失って組織に保護された人物であるならば。

リーダーは答案用紙を引き出しにしまい、安心させるようにニヤリと笑った。

「何、常識も欠落していないようだし、問題はないよ。」
「そ、そうですか・・・。」
「恐らく、君はバグ耐性がほぼ0だから、一番最初に感染したときにでも異常が起こったのだろうね。」
「はぁ。」
「安心するといいよ。記憶異常は自覚すれば回復する見込みがあるからね。」

リーダーは立ち上がるとぽんぽんと肩を軽く叩いた。
なおも俺が暗い顔でもしていたからか、肩をすくめられた。

「それに、我が隊の記憶異常は君だけじゃないしね。」
「へ?」
「まぁ、本人が言うまで黙っていようと思ったんだが・・・ヘル君も記憶異常でね。」
「え?!」
「それにキリ君も確か・・・あ。君はまだ会ったことがないんだったね。」

聞きなれない人物名に首をかしげてみる。

「今、我が隊は3人が遠征調査中でね。来月には君達の歓迎パーティが開けると思うよ。」
「あ、ありがとうございます。」

とりあえず、急に話題が色々あがりすぎて頭がこんがらがりそうだ。
なんとか整理して笑ってみる。
まぁ。元々そんなに記憶が欲しいわけでもないし、悲観してたわけじゃないんだけどな!
元はといえばアズの奴がいきなりどうこう言い出したからびっくりしたんであって・・・!

「そうだ。ビャッコ君。」

リーダーが突然机の引き出しを開けてがさごそと捜索しだした。
どうすればいいのかわからなかったのでじっと様子を見ていると、
10ページほどの薄い冊子を取り出してこちらに差し出してきた。

とっさに受け取ってしげしげと見てみる。
表紙のページは白く、何も書かれていない。
裏を見ると、異世界語でサインが書かれていた。
何のためのものだろう・・・とりあえず顔を上げると、
リーダーが何か含み笑いのような表情で机に腰掛けていた。

「さっきの通信の様子を見てちょっと思うところがあってね。
 間に受け過ぎられても困るが、参考までに見ておいて損はないと思うよ。」

参考?
さっきの通信?
・・・なんだ?
見当がつかずにとりあえず1ページ目を開く。


そして、絶句した。

 

 


「どうしろと!?」

あんなものを貰って部屋に直帰する気にはならず、唸りながら食堂の机に突っ伏した。
目の前には問題の冊子。
昼を回ってすでにおやつタイムであろう食堂にはちらほら人が見える。
丁度本部で仕事がある人が休憩時間に来ているのだろう。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
問題は目の前の冊子である。
リーダーは冗談のつもりで渡したのか、それとも真面目なのか・・・!?
いや、多分半分冗談で半分・・・
ありえる!
そして俺にどういう反応を求めているのか!?

「あの、それ何ですか?」
「う~・・・あ~・・・」
「あ。見てもいいですか?」
「う~・・・・・・・・・う!?」

ぎょっとして顔を上げる。
今のところ唯一の先輩であるヘル先輩が、可憐なポニテで向かい側に佇んでいらっしゃった。
しかも、問題の冊子を開い・・・

「って、ちょおおおおおおお!!!」
「え!?わ!?び、びっくりするじゃないですか・・・!ビャッコ君!食堂で騒ぐのはいけませんよ?」

たしなめられた。
思わず立ってしまったがしぶしぶ座る。
って。そうじゃないだろ。そうじゃ。
ヘル先輩は冊子の1ページ目を開いて、ちょっと固まっている。

「その・・・それはですね・・・リーダーが・・・」
「すばらしいです!」
「へ?」

予想外の反応にぎょっとする。
ヘル先輩がきらきらした目でこちらを見ていた。
あー・・・結構話してて思うんだけど、この先輩完全に天然ボケだよなぁ・・・
見た目割と凛としているんだけどな・・・。

「これさえあれば、アズ君のこともばっちりわかりますね!」
「いや・・・でも・・・」

『アズ取扱説明書』

共通語で書かれた1ページ目のタイトルに目をやり、すぐに反らす。
すごく、反応に困る。
しかも目次とか書いてあるし。
チラッと見たら「故障かなと思ったら」とかもあったし・・・。
もしかしてリーダーが書いたのだろうか・・・。
いや、でも裏の署名は・・・。

「ええっと・・・『アズは接し方を間違えなければ決して怖い生物ではありません。』」

いや、既に猛獣扱いされてね?!

「『正しいコミュニケーションを取って、意思疎通をはかりましょう。』だ、そうです。」

いや!何!?
この犬とか猫みたいな・・・いや、どっちかというと異世界人扱い?
まあ、異世界人だけどさ。

「さっそく実践してみましょうビャッコ君!」
「いやいやいやいや!真に受けるんですか!?これを!?」
「仲間同士が意思疎通をしっかりしないなんて間違ってますから!」

あ。先輩がきらきらしてる!
きらきらしてるよ!やっぱり正義感強くて押しも強いよこの先輩!!
がしって掴んできたよ手を!
何か間違ってる!何か間違ってるよ完全に!!

「さぁ!行きましょうビャッコ君!」
「そうだね。下民にも意思疎通をはかるべきだよね。」
「さすがお心が広いですわお兄様!」

・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
声が、2つ多かったような・・・。
ぎりぎりと嫌がる神経全無視して横を見ると金髪の少年少女。
見たくない顔が二つ。

「フフフフフフリント!?それにフローラ?!?!!?」

最悪リア家双子がいらっしゃった。
瞬間思い切り妹の方に足を踏まれた。
ヒールの踵は効果抜群で、涙目。
良い子はまねしないでマジで痛いから。

「『様』をおつけなさい!」
「っ~~~~~!!!な、なんでお前ら・・・」
「あ。確かアズ君のお友達の!」

ぽむっとヘル先輩が納得する。
ちょっと待て、あの先週の買い物乱闘騒ぎを見て友達・・・だと!?

「そうさ。友達。友達ね。あの憎たらしい下賎の民と友達になってやろうと思ってね。」

フリントが妙な斜め45度のキメポーズで髪をかきあげる。
同期の女子よ・・・こいつのどこがよかったんだ・・・。
そして後ろでうっとりするブラコン妹もどうなってるんだ。
とにかく、こんな奴らに見せてろくでもないことになりそうにない。

「先輩!こいつらどうせ弱みを握りたいとかっ・・・!?!?!?いたたたたたごめんなさい!!」

フローラの足ふみ効果は抜群で食堂で飛び上がるのを何とかこらえた。
睨んでくる妹を押しのけながら足が踏めない位置までじりじりと後退。

「大体お前ら仕事しないでこんなとこぐばはっ!!」
「口を慎みなさい下民!お兄様に対してなんて口の利き方を!」

フローラの鞘が俺の頭に命中・・・!
フローラ・・・!命の恩人に対しても容赦ねぇな!!

「仲いいですね」
「よくないですわっ」
「いてっちょ!やめろ!叩くな!」

ヘル先輩・・・火に油を注ぐのはちょっと・・・!
というかここ食堂なんだから!
鞘振り回していいところじゃないから!

「とにかく、僕らも同行させてもらうことにするよ?それともその説明書をわたすかい?」
「いや・・・もう別にどうでいだだだだだだっだ!!引っ張るなフローラ!やめろ耳は痛い!痛いから!!」

くそう変態双子め!
兄がナルシストで妹が凶暴ってどんなんだよ!

「あーもう。じゃあ、ヘル先輩。ここで読みましょう。で、さっさと読んでリーダーに返しますから。」
「あれ?実践しないんですか?」
「し・ま・せ・ん・よ!!」
「そうですか・・・」

ヘル先輩しゅんとしても困るから!やらないからな!
その時どかっという振動があって横を見てみると少し離れて双子が食堂の椅子に腰掛けていた。
うわお。くつろいでらっしゃる!

「さぁ、さっさと読め。」
「読みなさい下民!」

うわお・・・疲れるこいつら・・。
ぐったりと目の前の席に座り込みながら頭を抱えた。
しかし、ヘル先輩はまったくリア家双子の様子を不快に思わないのか、
にこにこと少し周りを配慮してか小さめな声で朗読をはじめる。
まぁ、フリント登場のせいで周りどころか食堂ほとんど誰もいなくなったから小さくしなくてもいいんだけどね・・・。
いっつも乱闘してたもんな・・・俺らが顔合わせると・・・正確にはアズがだけどさ。

「えー。まず初めに・・・会話のやり方です。」

まず初めが難関だよね。
そしてそれは人間として普通に出来ることだよね。

「『アズは基本人の話を聞く気がないので、こちらを見ていないときは聞いていないと判断してください。』」

何か隣でフリントがリズムを刻むように指で机を叩いている。
どうやら入隊式のことでも思い出しているのか、それとも癖かは判断できなかった。

「『もし話しかけたい場合は名前を呼んで、こちらを見てから話しかけること。』」

いや・・・だから犬とか猫じゃないんだから・・・。

「『そこで不機嫌だと能力を使って殴られるので離れてください。』」

いやいやいやいや!!怖いよ!?
なんで声掛けた時点で殴られる危険性があるんだよ!!??
思い当たる節は微妙にあるけどさ!!

「『アズの能力は半径2m以上は届かないので、不機嫌そうなときは範囲外で名前を呼んでください。』」

ぴたり、とフリントも指が止まる。
ああああああ!!!・・・・そうか!これ弱点になるのか!
あいつ実は遠距離攻撃できない制約があるのか!

「『ですが、範囲外だからといってあんまり調子に乗るとナイフを投げ飛ばしてくるので怖いなら盾を常備してください。』」

・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・イヤ過ぎる・・・!
いや、想像できますけども!!できるけどさ!!

「『スピードに自信があるなら、範囲内でも特性が持続できるのは一瞬なのでその一撃は避けましょう。』」

戦闘レッスンかよ!?

「『そして一回避けると次の特性を読み取るまで平均0.1秒ほどかかるのでその間に用件を言いましょう。』」

無理だよ!?

「『盾等を用意して攻撃を受けると反動でアズの手元の武器が壊れることがあります。』」

だからさっきからなんで臨戦態勢前提で話すの!?

「『が、武器が壊れると本気で怒って猛攻してきたり接近戦に持ち込まれるので自信がない人はやめましょう。』」

そしてこの戦闘指南微妙に意味がないよ!?
というか、会話だったよね!?これ会話指南だよね!?

「以上が会話のやり方です。ためになりますね・・・!」

いや、なんか半分以上・・・その・・・戦闘レッスンだったような・・・

「あ。次は表情の読み取り方です。」

そして最難関!!!

「えーと。『雰囲気で察しろ。』以上です。」

・・・。
・・・・・・。
あ!この人絶対書いててめんどうになってる!
ちょ、無理だろ!雰囲気って・・・オーラー・・・!?

「ふーん。雰囲気ねぇ・・・」
「わかりにくいですわね。」
「ま、つまり下民は表情が出ないから会話で察しろってことだね。」
「さすがお兄様!理解力が天界人並みですわ!」

フリントさん。意外に真面目に聞いてません?
というか、ここ、ボケオンリーなのか!?
俺が異常なのか!?常識人いないのか!?

「あ。次は食生活です。」

待って!話に全然ついていけてないよ俺!

「『アズは味覚音痴なんでなんでも食べます。』」

あーそうでしたね前回問題になりましたね・・・!!

「『残り物でも腐ってても毒が入ってても絶対効かないんで安心してください。』」

何を!?
何に!?
ちょ、いや!あいつ人間だよな!?人間だよな!?

「『が、そのせいか食事が嫌いなので放っておくと1ヶ月食べなくて倒れるんで何か上げてください。』」

いや!さらっとすごいこと言ってるよこれ!
え?何?拒食傾向でもあるの?

「『ただし無理にあげすぎるともどしたり全力で殺しにかかってくるんで注意。』」

もうやだこいつ!!
めんどくさい通り越して怖すぎんだろ!!

「えーっと次は・・・」

今ので終わりかああああぁぁぁ!!
結局どうしろと!?適度に与えればいいの!?

「アズ君の反応にどう対処したらいいか、です。」

本当にこれにどう反応したらいいのか今まさに困ってるよ!!

「『物を投げつけられた時。無害な物なら反応してやって下さい、武器なら逃げろ。全力で逃げろ。』」

何があったああああああぁぁぁぁぁ!!

「『名前を呼びかけられた時。反応してやって下さい、面倒なら無視も可。ただし人によっては蹴られる。』」

だからなんでだよ!

「『殺意ある攻撃された時。敵と思われてます。逃げましょう。アズに平謝りは通じません。死んだふりも逆効果です。』」

そもそも攻撃された時点で・・・いや、もうツッコミが追いつかないだろうがっ!!!

「『話しかけられた時。後ろめたいことがなければ普通に話せよ。』」

あ。絶対めんどくさくなってる著者。

「『名前を覚えられていない時。アズが気になってくれたら覚えるんじゃないか?』」

とても投げやりですねぇっ!

「『ニックネームで呼ばれた時。アズが気に入った相手にする基本的な行動です。悪口っぽくても許容しろ。』」

まさかの命令形!?
いや、気にいられるのは・・・なんだろ、すごく複雑なんだけどな・・・。

「ええっと・・・次は・・・」


「何してんの?」


くるりと振り返ると、そこにはアズが・・・
アズ・・・。
・ア・・・・・。
・・・・・・・・・アズウウウウウゥゥゥ!?!?

ガダガタガタタンというリズミカルな音で全員が椅子から転げ落ちそうになる。
こういうときの対処は?!
あ!話しかけられたとき・・・だめだ!後ろめたいことがめちゃくちゃある!!

「いや・・・その・・・」
「や、やあ・・・奇遇だね・・・」
「こ、この前はどうも・・・」
「アア、アズ君・・・これはですね・・・」
「何。」

く、空気が・・・重い・・・。

全員の視線がヘル先輩の手の冊子に集中した時点でアズは動いた。
ためらいなくぱしりとヘル先輩の手から取扱説明書をひったくり、
止めるまもなく流れるような動作で勝手にぱらぱらめくりだす。

しばらく、食堂の中にページをめくる乾いた音が響き渡る。
そして最後のページで手を止めると、ついと俺の方にページを向けてきた。
一番最後辺りの行を指差している。
よ、読めってこと・・・?
目で聞くと顎を軽く引いて肯定。

「えーっと・・・」

『この文は同僚にせがまれて書いたけど、実行してどうなっても責任とれないからな(笑』


・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・ぐはっ。

「って!この冊子のこと知ってたのかアズ!?」
「知り合い。」
「はあっ!?知り合いが書いたのか?ってことは騙された!?リーダーにおちょくられたのか!?」
「そうじゃね?」
「嘘だああああああぁぁぁぁぁあ!!!」

机につっぷしてわめいていると、

「ふ・・・最初からこんな文僕はあてにしてないさ・・・」
「さすがですわお兄様!」
「え、ええっと・・・ビャッコ君は既にアズ君マスターですよ!」

斜め45度のキメポーズ、ブラコン、見当違いなフォローが聞こえた。
なんか・・・振り回されたのに・・・納得いかない!

ぎろりとアズを睨んで抗議をあげようとしたとき、ふと、口をつぐんでしまった。

 


それはアズが裏のページの異世界語で書かれた署名を撫でる顔つきが、
なんとなく、寂しそうな・・・少し嬉しそうな表情に見えたから。

 

・・・。
・・・あれ?俺、あいつの表情わかって・・・あれ?

「何。」
「どうしました?」
「何を呆けているんだい?下民」
「間抜けな顔ですわ・・・」

それは・・・
なんというか・・・

 

「全っ然嬉しくねえええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

今日一番腹の底から出した大絶叫は、後に聞くと廊下を歩いていたリーダーにも聞こえたらしい。

 

「シロ。おかしくない?」
「うるせえっ!!元はといえばお前のせいだろうが!!」
「何怒ってんの。」


つづく

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